掛け算で効果を発揮する学び(後編)
前回の「掛け算で効果を発揮する学び(前編)」では、以下の点から話をスタートしました。
パフォーマンス=「環境要因」 × 「自分自身の力」
つまり、私たちが日々生み出しているパフォーマンス(成果、結果)は「環境要因」と「自分自身の力」の掛け合わせによって生み出されているということです。
これは、あくまで1つの側面をとらえた言い方に過ぎませんが、この見方によると、私たちのパフォーマンスには、「自分自身の力」が掛け算として影響しているということですね。もちろん、偶然を含む環境要因の悪戯によってパフォーマンスが上振れすることもありますが、そこに持続性は期待できません。持続性、さらには成長性を期待するならば、「自分自身の力」を高めることが必須となるわけです。
この「自分自身の力」について、今、この瞬間から底上げを図る場合と、いずれトレーニングして高めようと先送りする場合とでは、残酷なまでの差が生まれるという点に前編では触れました。
言い方を変えるならば、今の延長線上で想定される未来ではなく、より急角度で上昇する未来への成長曲線を望むならば、「自分自身の力」を伸ばし続けながら(学びながら)上昇角度を上げ続けていくための努力が必要になるということです。
この「後編」においてはそこをもう少し紐解きたいと思います。
まず、「力」を分解します。例えば、私は次のようなイメージで「力」をとらえています。
「力」 = 「全てを統合・制御し、結果を生み出すOSとしての力」×「効果的アプリ」
「効果的アプリ」とは、特定の課題解決につながる知識・技術を指します。個別タスクを処理するために、さまざまな知識や技術が役立つ場面は私も何度も体験しています。遭遇している課題、そのときの「環境要因」によっては、そうした特定の知識・技術が武器になることもあるでしょう。
ただし、知識・技術には際限がありません。さらに、細かなものになればなるほど、うまくはまってくれる場面が限定されます。自分にとっては慣れていなくて使いにくいと感じることもあります。実際には、使い慣れた基礎アプリ(汎用性のある知識・技術)で十分、そのほうが使いやすくて役立つということもよくありますね。PCでいえば、エクセルやワード、パワーポイントを使いこなすことができれば、タスク特化型のアプリを用いなくても殆どのことができてしまったりします。そのことは知識・技術としての力に概ね共通します。
その意味において、今もしくは近い将来に、その知識・技術の有無や習熟度が勝敗を分けることになる場合を除き、知識・技術としての側面が強い「効果的アプリ」を追い求めることは得策ではないかもしれません。アプリは使わなければ大事なメモリーを食うだけのものでしかなく、そのアプリがなくとも他の基礎アプリと「もう1つの力」で十二分に「力」が発揮されるのですから。
大切なのはその「もう1つの力」、つまり、前述の式にある「全てを統合・制御し、結果を生み出すOSとしての力」を高めることなんです。そして、この力は「仕入れる」ものではなく、磨き続けて獲得するしかない類のものと思ったほうが良いでしょう。
私たちは、何らかの目的・目標に向けてベターを目指し、困難な状況を何とか切り抜け、まだ見ぬ未来をより良い形で描く日々を送っています。その流れを強いベクトルとして確立し、そこに自らの知識・技術も含む全てを統合・制御しながら投入し、強い意思を持って歩みを進めるのが「力の本質」ではないでしょうか。
仕事柄、私はさまざまな方たちと接していますが、できる人とできない人の差は、多くの場合はその「力の本質」の違いから生まれていると感じています。
この「力の本質」を紐解くには、実は最低100時間ほど必要です(苦笑)。軍師アカデミー講座はこの力の本質と向き合い、自分の中でそれを追究する学びの回路を組み込んでいますが、それゆえに100時間超の長時間カリキュラムになりました。ここでその全てを書くことは物理的にも不可能ですから、今回は大事なポイントを2つだけ書き記します。
1つ目は、とことん自分と向き合い、自分を理解し、自分は何者なのか?どうありたいのか?という「自分の立ち位置」を固めること。その立ち位置を明確化し、力強く大地を踏みしめるが如く、足に力を込める自分を確立することを軍師アカデミーでは重視しています。
私たちはキャリアの中で、その「立っている場所」が揺らいだり、変化する時期に何度も遭遇します。就職・転職・退職・独立・事業承継・・・キッカケはさまざまですが、その「立ち位置」を見つめ直し、自分はどうありたいのか?を固めなければ、未来へのベクトルを描くことなど不可能です。
2つ目は、業種業態を問わず、全てに通じる「価値を生み出し続けるための本質的構造」への理解度を高め、経営とキャリアにおける成長回路を動かすためのツボを体得すること。その成長回路の中でさまざまな知識・技術が統合され、マネジメントされながら駆使することで真に価値を生み出すベクトルが実現します。この構造を体得しなければ、せっかくの経験や知識・技術も機能しないばかりか、特には不幸の原因となってしまうのです。
この2つのポイントを押さえることで、「全てを統合・制御し、結果を生み出すOSとしての力」が強まり、「自分自身の力」が総合的に底上げされていきます。
さらに、「自分自身の力」の底上げは、「環境要因」と掛け合わさって可能性を拡げ続け、未来におけるパフォーマンスを掛け算式で向上させていくわけです。
便利なアプリを仕入れるだけの学びでは、きわめて限定的な効果しか得られません。慌てなくても時間があるとき、必要な時に仕入れてくれば十分加茂しれません。しかし、この自らのOSを強くする学びについては、スタートが遅れれば遅れるほど得られるものが減ってしまいます。1年の意味が大きく変わってしまいますから。
私は、自らが主宰する学びの場「軍師アカデミー」ではこのOSとしての力を強化することを意識し、皆で切磋琢磨することを全ての内容に組み込んできました。実際、その学びを取り込みながら自分のキャリア、自社の経営のステージを高めてきた人たちを数多く見てきたことで、その大切さに確信をもち、今に至ります。もちろん、その追究に終わりはなく、まだまだわからないことだらけですが。
学びとは、単純な仕入れにあらず。未来をより良きものにするならば、今の自分を変えずにまわりを何とかするという発想を離れ、自分自身を強くし、環境そのものに掛け算的に「力」を加えていこう。その「力」を強くするための学びは、今、この瞬間からスタートできる。私はそう思っています。