丁寧な下処理が差を分ける
美味しい料理をつくるには、素材そのものの良し悪しだけではなく、最初の「下処理」が肝心。丁寧な「下処理」が素材の持つ魅力を引き出し、変な雑味に邪魔されることなく、料理の美味しさを支えてくれる。自分で調理する方であれば、その「下処理」の大切さを実感したことがあるのではないでしょうか。
しかし、「下処理」には手間もかかります。技が求められる場合もあります。雑に行ってしまうと、素材の魅力そのものまで削ぎ落してしまうかもしれません。だからといって、その「処理」を省いて後工程に進んでしまうならば、その料理は最初からうまくいかない進め方、イマイチな出来上がりになることが確定です。刺激の強い調味料でマスキングし、誤魔化すこともできるかもしれませんが、そうなると素材の味も消え、健康面でも良くないものを食すことになってしまいます。
こういう話、実は料理に限ったものではありません。例えば、自動車の塗装・コーティングにおいても、最初に「磨き」の工程でボディーをきちんと「塗装・コーティング」しておかなければ、高品質な溶剤を用いたとしても出来上がりや持続性に違いが出ます。建築等でも然るべき処理を建材に施し、出来上がりや持続性を視野に入れてから「建てる」プロセスに移らなければ、そのツケは近い将来、さまざまな不具合として顕在化するでしょう。
私が仕事をしている、企業や人の支援領域でも同様です。まずは、しっかりと状況を観察し、客観視し、「下処理」を施した上で動き出さねばなりません。できる限り、そこに時間を割きたいところです。軍師アカデミー流の言い方をするならば、「自己・自社の客観視」や「自己概念の明確化」といったプロセスがそこにあたります。正確に言えば、スタート地点であり、同時にゴール地点でもあり、経過地点でもあるという循環する成長回路の中で時々発生させるべき工程ではありますが。
まずは、向き合うべきものとヌケモレなく向き合い、現実を「視る」。そして、自分たちがどんな「問い」を持てばよいのか?その「問い」に対してどんな仮説を持ちうるのか?を熟考しながら手探りを繰り返し、現時点でのベターな選択と行動と振り返りを積み重ねる。コンサルティングの現場では、その流れをコンサルタント側もクライアント側とがともにつくりだし、ともに考え、試行錯誤できるかどうかが結果を左右します。そこに「下処理」のプロセスも含まれています。社内での取り組みであれば、上司も部下も一緒にそのプロセスを踏むことでチームが形成されます。
この「下処理」が仕事のクオリティを大きく左右します。しかし、忙殺される日々において、私たちは地味な下処理を軽視しがちです。そんな暇はないと・・・。ややもすると、わかりやすくはっきりした調味料をドンと放り込めば「食べられる味」になると考えてしまったり、インパクト強い調味料を見せられると「これでいいじゃないか」と思考停止してしまいがちです。結果的に、下処理の手間を放棄した調理のような工程で仕事に取り組んでしまいがちになります。そんな仕事ならば、やらないほうがよいかもしれません。
あの仕事、なんでうまくいかなかったんだろうか? あのコンサル、なんでうまくいかなかったんだろうか? と振り返ると、その多くが「下処理」軽視や「下処理さえ台無しにしてしまう、わかりやす過ぎる調味料」依存で進んでしまったことに原因があったりするものです。結構頑張っていたんだけれど、実は最初にボタンを掛け違えてしまっていたということですね。
私は自分で料理もしますが、素人レベルでも、いえ素人だからこそ、自分が行ったことと結果とがわかりやすく連動していることを実感します。そのたびにこうしたことを感じます。また、そのプロセスをたどっている現場に仕事で遭遇すると「これはまずい・・・」と危険を感じます。
何度も同じ過ちを繰り返す人や企業も多いです。もしかして我が社も?自分も?と思い当たることがある方は、「何か、下処理しなければいけないことを飛ばしてしまっていないか?」と過去や現状を振り返ってみるとよいかもしれません。
