toggle
2018-11-28

デフォルメされた話

日産ゴーン氏関連の報道が続いています。あまりにも衝撃的かつ影響範囲の広い事件であるだけに無理もありません。私も幾つかの意味で注目しています。目が離せません。。。

 

さて、その報道を目にしていて、どうにも引っかかることが1つあります。

 

殆どの報道では「ゴーン氏は大赤字の日産を黒字化し、V字回復を果たした功労者であったことは間違いない」という部分に異を唱えません。しかし、本当にそうなのでしょうか?

 

いえ、決して「間違っている」というつもりはないのです。当時、ゴーン氏及びルノーによる構造改革が断行され、大胆なリストラを進めなければ、日産は本当に無くなっていたかもしれません。その意味で彼が功労者としての側面を持つことに異論はありません。

ただ、気になっているのは「V字回復」という言葉が安易についてまわっていることです。

 

若い人の場合、当時の動きをリアルタイムでとらえるにはまだ幼かったということもあるでしょう。当たり前のように「日産はゴーン氏によってV字回復した」という歴史的事実のようなものが頭に刷り込まれているのかもしれません。そうであれば、V字回復という事実があったのだと理解していてもおかしくないでしょう。

しかし、当時既に社会人としてビジネスを行っていた私にとっては、ちょっと違う印象があるんですね。

 

実は、日産の「V字回復」は会計処理のマジックによって実現した「演出」であると、当時から言われることがありました。

具体的には、彼は翌年度以降に実施するリストラ費用等を前もって引当金等で計上し、最初の年に過去に例がないくらいの大赤字を意図的に計上させました。2000年3月期、日産は巨額な引当金計上を含む処理により(まだ発生していない損失を前倒しで計上したことにより)、過去最悪の赤字となったわけです。

翌年以降、彼は大胆なリストラを断行(ドライにリストラをやりきることは外から来たゴーン氏だから可能であり、それを押し切ったのは間違いなく彼の功績?でしょう)していきます。しかし、そのリストラ費用は2000年3月期に既に引当金計上しているので、会計上はもう費用計上されることはありません。つまり、翌年からの利益数値は当たり前のように底上げされるわけです。

その結果、見事なV字が演出されました。ゴーン氏が数字へのコミットメント経営を強調していた頃は、こうした会計上の工夫も駆使しながら数字を演出していたのは割と知られた話です(会計なので客観事実が公表されており、いろいろな場で勉強・研究材料にされています)。

日産の業績回復は、大胆なリストラによる収益構造改革によって実現されたことは間違いないでしょう。しかし、その回復を劇的に(V字として)大きく見せるための演出が会計ルールによって施されていたわけです。

 

こうした処理は「ビッグバス」と呼ばれ、経営者が交代した際にその成果を強調するために時々行われます。業績不振で経営者が後退したとき、会計処理ルールに手を入れるところは珍しくありませんが・・・V字回復にはそういう側面があるということです。

実際、その演出により株価や士気の面でもプラス効果が生まれることもありますので、そのこと自体を否定するつもりはありません。

ただ、冷静に実態を理解するためには、少々邪魔になる演出です。

 

日産のV字回復については、一種の会計マジックとして語られることも多かったのですが、そのことを持ち出すと話が複雑になり過ぎるのでしょう。今回は削ぎ落されて語られているようです。ゴーン氏=V字回復の立役者・功労者であるという前提をつくって話を膨らませたほうが、ドラマチックで面白い話になるのかもしれません(笑)。

 

こうやって、歴史の細かな話は削ぎ落され、わかりやすくデフォルメされた話だけが残っていくのかもしれませんね。別の言い方をすれば、私たちの手元に届く情報の殆どは都合よくデフォルメされているということ。その表面だけを見て判断するのはとっても危険ということでしょう。気をつけたいと思います。

 

関連記事