AIは軍師になれるのか?
驚くべきスピードで進化を続ける『AI』。もしかすると、人類が積み重ねてきた何か、人としての存在意義さえも破壊してしまうのではないか?という不安や恐怖を感じる方もいれば、ついにこんなことまでできるようになったのかという革命的な新技術の到来に期待し、チャンスを見出す方もいるでしょう。そのどちらの感覚も理解できます。そして、吹き荒れる変化の嵐が幕を開けた今だからこそ、私たちは(私は)どうありたいのか?を突きつけられていることも日々感じています。
そこで、15年前に軍師アカデミーを2010年に立ち上げ、軍師人材の輩出に取り組んできた立場から、果たして “AIは軍師になれるのか?”という問いと向き合ってみました。
とても難しい「問い」ですが、結論としては・・・AI時代だからこそ「(AIではなく)人である軍師」が求められるし、AIの力と「人間ならではの軍師力」が融合してこそ次のステージへ。言い方を変えると、単純にAI活用に長けていくだけだと「自分の居場所さえなくなる」ことが懸念されるが、そこに「軍師力」が加わることで未来人材としての自分が見つかるかもしれない。そんな着地点に現時点では落ち着きました。以下、そのことについて本日は書かせていただきます。
まず最初に・・・私たちは、独自の定義として『軍師』を以下のように表現しています。
『大切な誰か』が今の自分の力では越えられない壁に向かうとき・・・その『大切な誰か』が自らの意思と行動で成長し、その壁を越えていく。その成長と未来づくりを支援し、ともに成長しながら歩む存在。それが軍師。

私たちは、人には誰しもこうした「軍師」の顔があり、その「軍師」たる自分を育むことで「強い経営×豊かなキャリア(人生)」の実現力が高まると考えています。そして、個人主義や自分ファーストに陥りやすい現代社会だからこそ、「軍師」たる自分を持ち続けたい・・・そんな願いを込めて軍師アカデミーという学びの場を続けてきました。
では、この「軍師」たる役割も、いずれはAIが担うようになるでしょうか?
正直なところ、その答えは私にはわかりません。ただし、現時点では次のように考えました。
- AIや機械が主役の世界になればともかく、人が主役の世界が続く限り、(現時点では)AIよりも人のほうが得意な領域がある。そして、私たちの日常において、物事がうまくいかない理由はその「領域」に問題の本質があるということが珍しくない。
- 例えば、「あえて選択する“非合理”」は人間の得意分野。多様な価値観を持ち、時には矛盾する感情にも支配されるし、一瞬で変化することもある人間という生き物は、時には合理性よりも「あえて選択する“非合理”」を正解としたいときもある。実際、失敗や損失・痛みそのものがもたらしてくれるものもあり、そこに確実性はなくとも、あえて選択しなければ生まれない未来がある。
- 「軍師」とは、「あるべき論としての“正解”」を短絡的に示す存在ではない。合理性も重視するが、最終的には「あえて選択する“非合理”」にも意味づけし、大切な誰かが自らの意思で未来を描くこと(その過程で成長すること)を支える存在だ。
- いつかはそういう役割を果たしうるAIも現れるかもしれないが、こうした非合理の土俵ではまだまだ人に優位性があるのではないか?そこでは、自らも不完全で、過ちも犯す人間だからこそ生まれる関係性、ともに成長しながら人間らしく歩む者同士だからこその絆も存在するのだから。
- つまり、優秀なAIは軍師の力の一部を担うようになっていくが、私たちが定義する「軍師たる存在・役割」は人間だからこそ担い得るものという現実はまだ続くのではないだろうか。
おそらく、IQを駆使し、豊富な情報を収集しながら論理的に課題解決するための分析や仮説形成、判断の土俵ではAIの得意領域。既に相当のレベルにまでAIは到達しています。戦いの鉄則としては、その土俵で人が勝負しても負け戦でしょう。
ただし、その高度なIQ技能だけでは解決しないのが人間社会の諸問題。むしろ、(IQではなく)EQを駆使しながら、合理性と相反する思考・行動・感情に走る「人間」を理解し、そこに共感し、合理性を損ないながらでも人間らしい仮説形成と決断を積み重ねる場面もあります。そこは、現時点では人間ならではのカバー領域と言えますし、ともに成長しながら歩む軍師(人間)だからこその価値が生きる部分でしょう。
もちろん、既にEQに踏み込んだ共感型AIの開発も進んでいると聞きますし、いずれEQも高いAIは登場してくると思います。しかしながら、この領域においては、人が主役となり、補助機能としてAIを活用する形が簡単に崩れるとは考えにくいのが正直なところです。もしかすると、人間側がその部分でAIに依存する社会が到来する可能性もありますが・・・もしかすると、その領域は人の最後の牙城となるかもしれませんし、そうそう崩れるものではないと私は考えています。
なお、軍師の仲間(軍師アカデミーの学びを共有した人たち)にも少なからずいらっしゃいますが、これまでIQの領域における課題解決力、特に思考能力の高さや専門知識・技術の豊富さを「生きる力」として磨いてこられた方たち(特に、その中でも意識の高い方は)は、早々にそのIQ領域を強化するためにAIについて学び、その良さを活用されようとしています。きっと、その活用により知的生産性を高め、業務遂行能力も飛躍的に向上させてくれることでしょう。
ただし、もしかすると、「この先には、自分さえも不要になる世界が待っていないか?」と不安を感じる場面があるかもしれません。今は周囲に先駆けてAI活用に長け、自分の優位性を実感できているけれど、いずれはその自分さえも不要になるのでは???普通に考えれば、そう感じても不思議はありませんね。
しかし、決してそんなことはありません。
IQ面の課題解決をAIが助けてくれるようになればなるほど、車の両輪のごとく、「人間」という存在がもつ複雑さ・厄介さ、さらには現実社会の理不尽さや透明さの中で「自分ならではの結論」を出し、それを正解に持ち込む力が求められます。その力さえ置き去りにしなければ、きっとAIは両輪の1つとして私たちの可能性を拡げてくれることでしょう。
軍師アカデミーを開始したのは2010年。その頃、ここまでAIが発達し、私たちの社会を変革し始めるとは予想していませんでした。しかし、当時から「強い経営×豊かな人生(キャリア)」を掲げ、曖昧で不安定な「人間」そのものを主役にした支援の形を大事にしてきたことが、このAI時代に未来への鍵を握るようになったと感じています。
結論:AIは(私たちが定義する)軍師になることは難しいが、軍師としての自分を鍛えておけばAI時代も人間ならではの役割を果たし続けることができる。そう期待したい♪
軍師アカデミーの場でも、そんなことを意識しながら人間同士の切磋琢磨を進めたいと思います。