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2018-11-25

キャリアのオールクリア

本棚を整理していると、ずいぶん前に読んだ1冊の書籍が目に留まりました。「50代からの選択」(集英社)、著者は大前研一氏。2004年の秋に出版された書籍です。

2004年、私がサラリーマン生活を卒業して独立した年です。実際にこの書を読んだのは随分後になってからなので、決してこの書の影響を受けて会社を辞めたわけではありません。内容もよく覚えていません(苦笑)。ただ、「(人生、キャリアの)オールクリア・ボタンを押す」という部分(だったと思います)に共感を覚えた記憶が残っています。

 

オールクリア・ボタンを押す。

その意味することは、それまでのキャリアで積み重ねてきたものに依存しながら生きることに区切りをつけ、新たな自分のキャリアづくりに挑戦することだと私は理解しています。いわば、キャリアの節目を能動的につくりだすために、過去及び今の自分を一度ゼロベースに戻して再スタートすることを意味します。

仕事関係に限って考えれば、転職、独立起業、社内での自己申告による異動などがその具体例となります。私自身、サラリーマン時代には自分の希望による異動も多く経験しましたし、35歳での独立・起業は生活すべてを一変させる「オールクリア・ボタン」でした。(実は、独立後も時々、自分の仕事領域を修正するべく、小さな影響範囲でのオールクリアボタンは時々押しています)

 

実は、このオールクリア・ボタンを押すには「勇気」が必要です。

私たちはある程度の期間、まじめに何かに取り組み続けると、その頑張り続けたことへのリターンを手にします。

自分自身の熟練、信用・信頼の蓄積、周囲の支援者、仕事をするための環境が構築され、自分にとっても、周囲にとっても「収穫期」とも言える時期がやってきます。成果とリターンが好循環を生み出す時期であり、「やっとここまで来たか」と思える瞬間です。

その状況を自ら壊すには、周囲からは無謀ともいわれるような「勇気」を持つ必要があるかもしれません。

私が35歳でその「オールクリア・ボタン」を押したとき、私にとっては一種の「収穫期」に入ったところでした。会社の中で力を発揮し、処遇面も含めた恩恵を得るためという部分では恵まれた環境が存在し、脂がのってくる時期でもありました。当然、周囲からは反対もされましたし(苦笑)。ボタンを押すには勇気が必要でした。

ただ、環境が整えば整うほど自分がそこに甘える部分が出てきてしまうことへの違和感を抑えきれなかったこと、自分の可能性を試し切らないでキャリアを終える流れに入ることへの罪悪感のようなものもあり、若いうちにもう一度自分を未知なる荒波に放り込みたいと考えたわけですね。うまくいかなければ、またイチからやり直せばいいと・・・。

 

あれから約15年。当時、勇気を持って押したボタンの意味を振り返ると、幾つかのことが頭に浮かびます。

まず、オールクリアとは、実は、全てをゼロに戻すものではないということ。

会社を辞めるにあたっては、ちゃんと筋を通し、お世話になった多くの方々にかけてしまう迷惑を最小化するために全力を尽くしました。今でも現役の会社関係者とのお付き合いは続いています。そして、私と同様に会社を卒業した方たちともつながり続け、時には仕事をご一緒することもあります。つまり、人とのご縁は貴重な宝物として、会社を辞めた後も蓄積し続けています。

また、自分の仕事のDNAとして、会社員当時の経験は深いところに入り込んでいて力の源泉の1つになっています。表面的には全く違う仕事をしているときであっても、その土台があるからこそ一味違う成果を出すことができると実感します。

もしかすると、オールクリアによって環境を一変させたとき、それまでの自分が培ってきていたもの(会社という場で与えられたものから得てきた力)が持つ本当の価値、可能性の広がりが見えてきたということが言えるかもしれません。生物は環境変化に合わせて進化していくものですが、ある意味、環境を変えたからこそ見えたことがあり、それを脱皮・進化させた力が自分の中で生まれたのかもしれませんね。

 

そうしたことを考えると、勇気を持ってボタンを押した自分は、ボタンを押せなかった場合の自分との比較で言えば、明らかに成長しているだろうと確信しています。他者との比較ではなく、自分の中での比較での話ですが、より成長した状態で今を迎えることができたことには納得感もあります。

 

そんな私も来月にはついに50歳。この書籍タイトルにある「50代」に入ります。

私が社会に出たころは「60歳で定年を迎え、老後に入る」という雰囲気がありましたが、時代は変わりました。

おそらく、70歳前後までは現役であり続けることになるのでしょう。いずれ仕事量は減らしていくと思いますが、仕事のカタチを再設計することで、これからもモチベーション高く、なっときできるクオリティの仕事を続けていく環境づくりに取り組む時期となりました。

もちろん、それなりに大きなオールクリア・ボタンを押す場面もあるでしょう。何かをクリアしながらも・・・ちゃんと積みあがる価値を大切にしたキャリア(人生)の節目を自分でつくるべき時期。未知なる時間の到来を予感し、ワクワクするものを感じる今日この頃です。

 

 

 

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